太陽の光がさんさんと降り注ぐそれほど深くはない森の中。 それに似つかわしくない声が聞こえる。 「嘘吐き!!妖精なんて、いないじゃないか!!」 「嘘吐きローザとはもう遊んであげなーい」 「やーい、嘘吐いてばっかりだと泥棒になっちゃうんだぞ!!」 数人の子どもたちが一人の少女を取り囲んでいた。 子どもたちはそれぞれ少女に傍から聞けば、ひどい言葉を言っている。 ‘いじめ’……世間から言うとそのような状況だ。 それでも、少女は涙一つ零さず、何も言わずただじっと耐えている。 それが子どもたちをいらつかせたのか、さらに辛辣な言葉を吐き出した。 「あんたの髪ってさ、灰色で薄汚れてるよねぇ」 「ほんと!!気持ち悪〜い」 「…………」 「目の色だってさぁ、雑草みた〜い」 その言葉を聞いて少女は何か言いかけたが、次には口をぎゅっと閉ざして俯いた。 だが、実際少女の髪と目の色は誰よりも美しく灰色などではない。 日光を受けて煌く銀髪と薄い透き通ったグリーンだった。 それが羨ましいから苛めているのかは分からないが。 「何とか言えば?」 そのうち、子どもの一人がすっと、両腕を前へ突き出した。 すると、小さな少女の体が傾き地面へと倒れ込む。 肩を押されたのだろうか、踏みとどまることが出来ずに地面を引きずり顔に少しの擦り傷が出来た。 人に傷をつくってしまったことに子どもたちが一瞬怯む。 様子を伺いながら、いつ引こうかと子どもたちが思案し始めたころ。 「……ロー……ローザ?……」 少し遠くのほうから女性の声が聞こえた。 その声を聞くなり、子どもたちはそれぞれ散らばって森の中へ隠れていく。 女性は少女を見つけると、ほんの少しだけ微笑んで足を速めた。 そして、その声の女性は少女の下へたどり着きその場にしゃがみこんだ。 「…………」 ただ、何をするわけでもなく隣に座る。 それが少女にとって今一番して欲しいことで、女性はそれを分かっているかのようにやってのけた。 そして、女性は徐に手を伸ばすと少女の頭に手をのせた。 「……ック…フ…ゥ…ヒック……」 その瞬間、ずっと我慢していた涙を堪えられなくなったのかぽろぽろと頬を涙が伝い始める。 その表情はとても悔しげな顔で、少女の感情が伝わってくるようだった。 「……頑張ったね………」 女性はそう言うと優しく優しくわが子を慈しむように抱き寄せる。 少女は抱き寄せられるとよりいっそう、悲しさが増したようで大粒の涙を流した。 「……泣かなかったね………えらいよ」 さっき泣けなかった分、とでも言いたげに少女は女性の服の裾をしっかりと掴んだ。 そうしてから、大分時間が立ったころ。 少女は口を開き始めた。 「ねぇ…お母さん…妖精が見えるのは悪いことなの……?」 「いいえ」 少女の問いかけに女性…基、母はそれを否定した。 「妖精を見ることが出来るのは素晴らしいことよ。だって、妖精は心の綺麗な人に見えるって言う じゃない」 「心……?」 「そう、心。…きっとローザも綺麗な心を持っているの。だから妖精が見えるのよ」 どこか、懐かしそうな顔をして母は呟く。 そんな母の表情に子どもである少女が気付けるわけもなかった。 「お母さんにも見える?」 不安そうな顔をしながら少女が問いかけるも、母は残念そうな顔をした。 「お母さんには見えないの。でもね、きっといつか見えるようになる。そう信じてるわ」 屈託のない太陽のような微笑みを浮かべた母に少女もつられて笑みを漏らす。 「ずっと、一緒にいてね。」 「えぇ」 「それからね、お母さんにもきっと見えるようになるよ」 恥ずかしそうに呟いた少女の頭を母は優しく撫でた。 それは傍からみると微笑ましいような光景で、それは少女の中で一番幸せな瞬間であった。 それから、数年後……少女の母が亡くなった―――――。